■不可視なもの・確かでない存在との遭遇
香川県の豊島(てしま)にやってきました。
さかのぼること数週間前「人間の深層心理や不可視なものに対する知覚を鑑賞者に疑似的に体験させる作品を多く制作する」冨安由真さんが、瀬戸内国際芸術祭で、新作のインスタレーション「かげたちのみる夢」を発表するという情報を入手。
冨安さんのことはずっと気になっていて、いつか彼女の作品を体験したいと思っていたので、ワクワク。
が、しかし、
会場は瀬戸内の豊島。私は、四国に行ったことがなく(瀬戸内を通りすぎたことはある)。
さらに、島なんて、最果ての地に行くような気持ちに。
感覚としては、ほぼ海外に行くレベル。遠すぎる…。
行きたいけど、最果ての地、遠すぎる、行きたいけど、でもな…。1つの美術作品を観に行くだけにお金や時間を掛けられるご身分ではないし、とぐるぐると繰り返し考えながら時は過ぎ…。
そして、二日前、この日程を逃したら夏期はもう行けないということに気づき、突如行くことを決意しました。(むろん1人で)
■作品までの道のり
マリンライナー 岡山駅 6:01発 → 高松駅 6:56着
フェリー 高松駅 7:41発 → 豊島(家浦港) 8:16 着
前日に岡山に宿泊し、早朝、まずは電車で高松駅に向かい、高松から豊島へは、フェリーに乗ります。
朝早くに高松に着いたつもりが、フェリーのチケット売り場には、すでに長蛇の列ができていました。
ここで、検温をされ、腕にリストバンドをつけてもらいました。その時は「何だろうこのリストバンド?」と思っていたのですが、のちにとても重要なものだと気づく。
フェリーは、定員を超えて乗れないかもしれないと言われたのですが、何とか乗れました。よかった。
■豊島(てしま)
豊島に着きました。
■家浦港 8:35
島では、バスが数本走っているほか、自転車の貸し出しもありました。
作品「かげたちのみる夢」までは、バスで8分ほど。私は、作品の開館時間まで1時間くらいあったので、歩いて作品を目指すことにしました。
道端にヒマワリが咲いています。見るものすべてから感じるエネルギー。
まぶしい太陽が照り付けます。
右手奥には、海や島が見えます。
私は、都会育ちのため、海や山が見えて、伝統的な民家が並ぶ風景は新鮮です。
伝統的な民家がたくさん立っています。
風景と調和していて素敵です。
私が目指す「甲生地区」は、1.6㎞先にあるらしい。
しかし、それがどれくらいの道のりなのか、都心と風景が違い過ぎて検討が付きません。
歩き続けること、約30分。だんだんと山道になってきました。
横を見るとこんな感じ。道はあり、アスファルトで舗装されていますが、周りは森です。
船を降りた時には、たくさんの人がいたはずなのに、時々、車や自転車が時々通り過ぎるだけで、誰もいません。
実は、昨日携帯電話の充電をしたつもりでしたが、コードが抜けていて、充電ができていませんでした。人もいない、民家もない。というか、山の中。ここで、道に迷ったらどうやって連絡を取ればいいのでしょうか。
自分がどこを歩いているのか分かりませんが、分かれ道もなく、道が続いているので、そのまま歩き続けます。
見渡す限りの美しい風景。道も歩きやすく、のどかな気持ちです。
誰かが作った道を何も考えずにひたすら歩く。私の人生のようだ。
今では、全然行かなくなりましたが、小さい頃、よく家族で山登りに行ったことを思い出します。標高何千メートルの高い山にもたくさん登りました。
今回、バスに乗らずに歩くことにしたのは、開館時間まで時間があったのもそうなのですが「世界は歩いて旅したものにのみ、その本当の姿を見せる」という気持ちがあるから。
冒険家の誰かも同じようなことを言っていました。
バスや電車から眺めるのではなく、自分の足で歩くことでのみ見えてくる世界がある気がしています。たとえ、炎天下でも、道のりが長くても、充電が残りわずかでも、五感を使って自然を感じ、この道を歩いている一瞬一瞬を感じる、それが歩いて進む旅の良いところだと思います。
歩くからこそ見える風景を満喫しながら進みます。
と、その時。
!?
歩き続けること、約40分。
何かが、私の横を通り過ぎました。あの後ろ姿は、バスです。
炎天下の中、自然に親しみながら、長時間ひたすら歩いてきた私の横をものすごい速さで、去っていきました。
バスの去った後は、どこまで続くか分からない道と一人の旅人が取り残されるのみ。
道路わきをよーく見るとカニが歩いていました。山にカニがいるなんて。新しい発見です。
歩いていると景色の移り変わりを肌で感じます。こういう時間が本当は必要なのに、普段は、曜日や季節の感覚も薄いまま生活をしていて、気が付いたらもうこんなに過ぎたんだと思うばかり…。
歩いていると時間の流れをゆっくりに感じられて、なんだか満たされた気持ちに。
と、その時。
!?
何かが、こちらに向かって走ってきます。
そして、炎天下の中、自然に親しみながら、長時間ひたすら歩いてきた私の横をものすごい速さで、去っていきました。
あの後ろ姿は、(先程の)バスです。
歩き続けること約45分。
バスの去った後は、どこまで続くか分からない道と一人の旅人が取り残されるのみ。
視界が開けてきました!
なんと美しい風景でしょう。
段々畑が見えます。
こんな風景が日本にあったなんて。
振り返ると、今まで歩いてきた道が。
よく考えると、この島の人口は、約700名ほど。つまり、中ホールのキャパシティくらいなのです。大ホールでお迎えするよりも少ない人々が、これだけ広い島に住んでいるのです。人に会わないわけです。
遠くに民家が見えてきました。
分かれ道です。
ついに「甲生地区」にやってきました。
視界が開けて、作品まで、あとわずか。
開館時間になったくらいの時間です。いい感じだ。
美しい田んぼが広がっています。
田んぼの向こうに海が見えるのが、私にとっては新鮮です。
横には、青々とした段々畑。
横道は、この先の民家に通じているようです。
稲のにおいがします。
歩き続けること約55分。
海の近くまでたどり着きました。この道を左に行くのですが、間違えて右に進んでしまい、戻りました。普段、海の近くに行くことなんてほとんどないので、のどかな町と海の風景は、とても魅力的です。しかし、暑さと疲れで、余裕がなくなってきました。
お屋敷の横を通って、進みますが、この道があっているのかどうか分かりません。
標識が見えます。
瀬戸内国際芸術祭では、見学者が道に迷わないように、道中に標識を設けているのが印象的です。青と白の標識は、目立つけれども風景となじんでいて素敵だと感じました。
歩き続けること、約1時間5分。かなり近くまでやってきました。
もしかしてここは、入り口なのでは?
元気な気持ちになります。
ずんずん、進みます。
歩き続けること約1時間10分。ついに、到着しました!
受付で、料金を支払い、リストバンドを見せます。
入り口では、バイクに乗って作品を見に来た男性が「リストバンドを付けていない方は入場できません」と言われ困惑していました。
私は、なんだかよく分かっていなかったのですが、この「リストバンド(1日限り有効)は、発熱や風邪の症状がないことを証する専用」のアイテムだったようで、これがないと有料の作品は鑑賞できないとのこと。ちなみにこの受付には、検温器がなく、リストバンドをしていない人は、検温スポットまで戻って、リストバンドを手に入れなければならないらしい。
検温スポットって・・・
この広い島の中で、しかも作品が少ない「甲生地区」から、どうやってそこまで行けと…。リストバンドが付いてて本当に良かった。途中でわずらわしいからと外したりしなくて良かった。フェリーに乗るための識別かなーなんて思って、もう降りたしいいかなんて思わなくて良かった。
せっかく、ここまで歩いてきたのに入場を断られたら心が折れます。そして、歩く気力もなく呆然と立ち尽くすところでした。
きっと、このような方法を取っているのは、きちんとした理由があるはずです。しかし、普段、コンサートホールでお客様の検温を行っている私は、検温必須なのに検温器がないのは仕組みとしてどうなのだろうと、自分だったらどんな仕組みにするかぐるぐる考えてしまいました。
■次回、いよいよ「かげたちのみる夢」へ。