やーぼのブログ

コンサートホールで案内係をしている著者が、出演者・聴衆・スタッフの思いが渦巻き乱反射する、劇場の魅力を語ります。 現在、新しいURL https://ya-bo.hateblo.jp/ に引っ越しを行っています。2023年3月31日にこちらのブログを閉じます。

【瀬戸内国際芸術祭2022】自然と建物が呼応する「豊島美術館」 @豊島 ③

■心臓音のアーカイブ (クリスチャン・ボルタンスキー)

バスで甲生(こう)地区から家浦港に戻ると、唐櫃(からと)地区に向かうバスがちょうどあったので、それに乗ってほかの作品も観に行きました。その一つがこちら↓


美しい景色。ここに住んでいる人々にとっては、当たり前の景色でも、私にとってはとても新鮮です。

 


緑の木々が美しい、トトロの世界を思わせる道。
この先には、何があるのだろう、ワクワク。



道を抜けると、クリスチャン・ボルタンスキー作の「心臓音のアーカイブ」の建物。 
こんなに美しい場所に心臓音のアーカイブというのは、私にとって不思議な組み合わせです。ですが、この場所をわざわざ選んだ理由は分かる気がします。



建物の目の前には、美しい浜。こんな場所が日本にあるなんて、にわかには信じられません。CGのようだ。

私は、瀬戸内国際芸術祭のことを冨安由真さんの作品を調べていて初めて知り、その作品を見るために豊島を訪れたのですが、もっと時間を取って島を満喫しつつ作品を楽しむというプランもよかったなと思いました。


■棚田プロジェクト



私が、今回の芸術祭で初めてその存在を知り、とりこになった作品があります。それが、なんの下調べもせずに行った「豊島美術館」です。

最近、劇場の美術品から興味を持ち、美術館に行くようになったのですが、島に着いたとき、豊島にも美術館があるなら行こうかなーくらいの浅い気持ちで、美術館の来館を予約しました。

そして、結論から言うととても良かった
ので、そのことについて語ります。



豊島美術館は、瀬戸内海を望む豊島唐櫃(からと)の小高い丘に建設されています。丘は、棚田になっており、その面積の広さと美しさに驚きます。



豊島は、その名の通り豊かな土壌と水に恵まれ、米や野菜の生産が盛んでした。しかし、日本の高度経済成長に伴い、稲作や農業は衰退し、棚田の耕作面積は1/10まで減ってしまったそう。


しかし、2009年4月、瀬戸内国際芸術祭の開催を契機に、かつての食の豊かさを取り戻そうと、豊島の人々が行政と一緒になって、豊島美術館の周辺に広がる休耕田の整備する「棚田プロジェクト」をスタート。

現在では、日本の原風景ともいえる美しい棚田の景色が広がっているとのこと。この美しい棚田の風景は、名もしれない人々の努力によってよみがえった風景だったのですね。


以前、京都の一人旅の記事を書いたとき、残したいというのは簡単だけど、それがどれほど難しいかについて考えましたが、こういうプロジェクトを見ると、本当に頭が上がらないなと思います。

 

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■いよいよ、豊島(てしま)美術館へ

豊島では、見るものすべてが美しくて、素敵で、自然やそこに住む人々+作品などからのエネルギーをあびて、静かにつのっていく楽しさでいっぱいになります。本当は、もっと語りたいことがあるのですが、長くなるので、次に進みます。



私が島の甲生(こう)地区を歩いているときには、人とほとんどすれ違わなかったのですが、唐櫃(からと)地区にはたくさんの人々がいます。みんな、ここにいたんですね。

緑の芝生の中にある、丸くて白い建物(中に入る前は、オブジェのようにも見えて、なんだかよく分からなかった)が、豊島美術館の作品です。

入場は完全予約制で、時間にならないと中(芝生のゾーンも含め)に入れません。

そして、豊島美術館のもう一つの特徴は、建物が、

・総合受付&チケットオフェス(土に半分埋まった四角い建物)
・作品(二つの大きな穴の開いた白い建物)
ミュージアムショップ(四角い入り口のある作品より小ぶりの白い建物)

の三つしかなく、それ以外の場所は芝生や道になっています。なので、外の天候がどうであれ、予約時間になるまでは、日よけのついた外のベンチでじっと待ちます。




ようやく、入場。

豊島美術館は、多くの美術館のように、建物の中にさまざまな作品が展示されているわけではありません。

建物の上部に空いた二つの穴から外気や太陽光が建物内部にまで入ってくる構造になっており、内部にはよく見るとかろうじてあると分かる作品というか仕掛けというか、言葉で伝えるのがとても難しいものが各所にあり、床にたまっている水や流れている水滴も建物と一体となって一つの作品を作り出しています。


暑い中、たくさん歩いたのと、携帯電話の充電が切れそうなのと、いろいろありましたが、ワクワクした気持ちは長続きしています。

芝生の上の道(順路)を進んでいきます。



雑木林の中を歩いていくと、

 

(人物が写っているため、ぼかしてあります。)
作品の入り口にたどりつきます。

この時点で、十分楽しいのですが、ついに作品の中へ。

入り口で、靴を脱いでスタッフから注意事項を聞きます。静寂が大切な作品なので、静かにせよ。そして、水滴やガラスのお皿のようなものなどもすべて作品なので、触らないこと。

この時点では、何が何だかよく分かっていなかったのですが、中に入ると、そこには何とも不思議な世界が広がっていました。(場内は撮影禁止)

壁も天井も床もすべて白で、天井に空いた二つの穴からは外の景色が見え、かすかに風が吹き込んでいます。

丸くて、白い額縁に、空の色と葉の緑がくっきりと見えて、その下には透明感のある大きな水たまりがあります。そして、自分の足元を見るとガラスのお皿のような作品や水滴、上部にはよく見ると、紐がぶら下がっていて、風になびいてかすかに揺れています。


ただただ、満たされた静けさ。そして、穴から見えるダイナミックな自然のコントラストは、何かを評価しようとか、受け取らなくちゃという雑念を静かにさせます。「全てはこれでよかったのだ」という気持ちになりました。

そして、たくさんの人たちが穴の下の大きな水たまりの周りで、座ったり、寝転んだりして休んでいます。こんなにたくさんの人がいるのに、みな穏やかな面持ちでいるこの光景が以後ごちがよくて好きだなと思いました。

私も、同じように水たまりの周りに座ってみましたが、不思議な感じです。作品と一体となっているのか、自然と一体となっているのか、そして、

・・・はっ!

危うく消えかけました。というか、消えました。今まで何度も、美しい美術館で浄化され消えかけましたが、ついに消えました。


作品を満喫して、外へ出ます。ちょうどお昼時だったのもあり、芝生では、人々がご飯を食べたりしながらくつろいでいます。かなり暑いですが、机や草で編まれた座布団があり、景色も良くて、こんな場所が家の近くにあったら通います。

 



こちらは、ミュージアムショップ。

不思議な形です。パッと見ただけでは、なんだか分かりません。中は、靴を脱いで入ります。


(人物が写っているので、ぼかしてあります。)
こちらにも、小さな穴が開いています。こちらは、ガラスで穴がふさがれていて外気などは入ってこないようになっています。

こういう家に住みたい。

ショップでは、書籍やグッズ、Tシャツのほかに、現在は、ショップ内での飲食はできません(豊島美術館カフェ・瀬戸内国際芸術祭2022会期中は休業)が、飲み物や軽食も売っています。なので、買った人は外の芝生で食べていました。


■碧い空(食堂)



今日一日、まだ何も食べていなかったので、ランチを求めて高台へと上がっていきます。



小屋のようなものが見えてきました。あともう少しだ!あともう少しで、食事にありつけます。



「碧い空」は、豊島美術館横の棚田の上にある製麺所直営のお食事処です。



何にしようかな♪ 
カレーそうめん¥500を注文しました。


今日は、晴れているので絶景です。嬉しい。

私のほかに、学生さんらしきグループが飲み物を飲んでくつろいでいました。そういえば、彼女たちの話し方は、岡山出身の先生の話し方に似ているな―。ほかの場所にも、そういう人達がいて、そうだよね、岡山の近くだものねと納得。

そして、もう一つ驚いたのは、美術館付近には、ファッショナブルな服装の人が多くいたこと。特に女性たちは、ひらひらとしたワンピースを着ている人もいて、アートを感じるお姿。

島を歩くんだからと、ズボンに長袖、リュック、トレッキングシューズという人(=私のこと)は、ほとんど見かけませんでした。


芸術祭を見に来ただけあって、美意識の高い人が多いのかな。もちろん、バックパッカーのような男性もいて、それぞれの物語を感じました。

■再び歩く

この後は、フェリーの時間が迫っていたので、家浦港へ戻ります。豊島は、遠いので次またいつ来れるかと思うととても名残惜しいです。ですが、天気も良く、新しい発見もたくさんできたので、ここに来れて本当に良かったです。そして、ここへいざなってくれた「かげたちのみる夢」の作者:冨安由真さんにも感謝です。

家浦港までは、歩くことにしました。バスに乗っていると快適で、時間もかかりません。ですが、作品だけでなく、この島全体の自然や民家の素晴らしさを味わいながら帰りたいなと思ったので、再び歩きます。

「世界は歩いて旅したものに、その本当の姿を見せる」

■歩くこと約1時間

(帰りの道のりは長くなるので、省略)
家浦港に着きました。フェリーは定期便のほかに、お客さんが多く乗り切れない人がたくさんいるため、臨時便も出ています。

朝の行列の教訓を思い出して、30分以上前にフェリーのチケット売り場にたどり着いたはずが、もう何名か並んでいました。そして、私がその後ろに並んだ数分後には長蛇の列に発展していました。島民より多いのではないかと錯覚する人数の多さ。開場中のコンサートのエントランスのようです。


私は、ここにたどり着く前に持っていた水を飲み干してしまい、のどがカラカラ。水を買いたくても、一人旅の私は列を外れることはできません。整理券をもらうまでの30分間、ひたすら辛抱しました。

 


そして、船出。また、ぜひ訪れたいです。

 

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