やーぼのブログ

コンサートホールで案内係をしている著者が、出演者・聴衆・スタッフの思いが渦巻き乱反射する、劇場の魅力を語ります。 現在、新しいURL https://ya-bo.hateblo.jp/ に引っ越しを行っています。2023年3月31日にこちらのブログを閉じます。

【東京芸術劇場プレイハウス】バックステージツアー

東京芸術劇場プレイハウスのバックステージツアー」に行ってきました。

東京劇術劇場は、年間を通していくつものツアーが行われているのですが、本日参加したのは、年に数回しか行われない、プレイハウスの裏側を余すことなく味わえる「舞台技術スタッフ」によるバックステージツアーです。

このツアーの倍率は、なんと5~6倍。申し込んだけれど参加できなかったという方にどんな内容だったのか教えてほしいと言われ、記事にしました。

(写真は、肖像権のためところどころぼかしてあります。)

 

三角や丸をモチーフにした建物。設計者は、葦原義信です。
何てことない建物のように思いますが、改めて観るといろいろな発見があって面白い。
建物の角から入る造りも珍しいなー。

今回の会場は、建物の2階「プレイハウス」。
東京芸術劇場の芸術監督野田秀樹のアイデアで、2012年の改修工事で大きく生まれ変わった劇場です。
壁一面に配されたレンガが印象的で、どの席に座っても見やすいんだとか。


早速、潜入します。

劇場のエントランスは、オペラ劇場を思わせるような豪華で格式高い雰囲気です。
落ち着いた色合いは、池袋の雑踏にいることを忘れさせます。たぶん。

プレイハウスは、834席の座席に加え、日本の劇場としては珍しい、常設の立見席があります。立見席も合わせると、定員は、900名以上。

開館当時は、中劇場と呼ばれオペラやミュージカル、演劇、ダンスなどさまざまなジャンルの公演が行われていたそうですが、2012年の改修で、演劇やダンスなどを上演するのに適した劇場として大きく生まれ変わりました。

壁一面がレンガになったのもこの時。
セリフが聞こえやすいように響きを押さえたり、より多くの照明が吊れるように左右の照明のエリアの壁を取り払ったり、客席側だけでもいろいろな工夫がされています。




今回は、表からは見えないバックステージについて、じっくり見学しました。

場内に入ると、オペラカーテンが閉まっていました。
そして、劇場には「アルルの女」が流れています。生のオーケストラを伴う、オペラのような音楽系の公演を行うことは、ほとんどなくなった今となっても、やはり、雰囲気はオペラ劇場のようです。

■はじまり

オンタイムで開演のアナウンスが流れ → オーケストラピットにスタッフふんする指揮者が現れます → 音楽の始まりと共にカーテンがオープン!

3分くらいすると今回の構成を担当している安田氏が登場し、概要と注意事項の説明。

それが終わると、ツアー開始8分後、参加者は舞台の上へ!!!


■舞台上空の機構の説明

 

照明を吊るブリッジやバトンを下までおろして見せてくれます。

幕やバトン、ブリッジの操作は、こちらの操作卓で行われています。↓


■グループごとに分かれてスタート♪


3つのグループに分かれて進みます。1グループは、十数名。

私は、Aグループだったので、
オーケストラピット → スポットライト → 舞台機構
の順に回りました。

幕を下ろして舞台を前と後ろに分けて、3つのグループが同時にさまざまな体験ができるように工夫されています。


■オーケストラピット

 

今では、オーケストラピットを使用する公演は、ほとんど行われないため幻と化しているオーケストラピットを特別に公開。
オーケストラピットの中に潜入します。ほかの劇場のツアーでもオーケストラピットには入ったことがないので、興味津々。

オーケストラピットって設置するのが大変そうですが、このバックステージツアーのために設営してくださり、スタッフの皆様、ありがとうございます。

 

オーケストラピットのセリは、舞台装置の一つで、下げて(最大3m下まで下がる)オーケストラピットとして使ったり、逆に舞台面まで上げて、せり出し舞台として使うこともできます。

指揮台の後ろの板だけ白くなっているのは、モニターなどから確認したときにも、黒い服を着た指揮者の動きが、後ろの板と同化せずよく見えるようにという配慮なのだそう。

■音響について

オーケストラピットの中では、オーケストラの椅子に座って音響担当のスタッフ方にポップスとクラシックの音響の違いと、音響にかける思いについてのお話を伺いました。


・「音」を聞くのではなく「空間」を聞いている
・一つの大きな空間の「音」をイメージし、「音」と「響き」を整える
・「音」だけでなく「響き」も大切で、「音」と「響き」を調整するのが「音響」の仕事だというお話・・・深い。

冒頭の音楽は、生のオーケストラではなくスピーカーをオーケストラピットに置いて流しており、その音源は、2022年1月に東京芸術劇場コンサートホールで行われた、ビゼー/劇音楽『アルルの女』の録音CD。このCDは、芸劇で演奏され、レコーディングから編集まですべて芸劇の音響チームが担当したもの。

演劇に適した劇場であるプレイハウスで、コンサートホールの響きを再現し、まるでオーケストラピットから聞こえているかのように聴衆に届ける、という才能の無駄遣いレベルの演出。さすがです。録音だと分かっているけど、生の音に聞こえる見事な演出でした。

音源を5分の1の音量で聴かせていただきました。コンサートホールを思わせる響きです。

撮影がNGということでしたので、写真には写っていませんが、音響の紹介をしてくださった男性のスタッフNさんは、声がバリトンのような音質で豊かな響きの方でした。

 

オーケストラピットは、客席の椅子を取り外して作るのですが、その椅子はどこに行ったのかというと、こんなところにしまわれています。

ホールによっては、ロビーや廊下に置いておくホールもあるので、しまっておけるスペースがあったことに驚きました。
 
■せり

次は、こちら。
暗いこの場所は、せりに乗り込む場所。実際に行ってみてほしい。

■搬入口

1階にある搬入口まで降りていきます。



搬入口は、大型のトラックが2台置ける広さ。いいね!
が、しかし、4つあるすべてのホールの搬入をここから行うため、搬入が重なったときは、譲り合って使わなければならない、難点がある。

プレイハウスは、運び込むものがたくさんあるので、舞台のせりを使って舞台に上げます。

■楽屋

楽屋は、舞台の後ろとその上の階にあります。
舞台と同じ階に楽屋があると衣装を着たまま階段の上り下りがなくて便利。
楽屋は、写真撮影NGでした。


■スポットライト


次は、スポットライトのあるピンルームへ。
ここから先は、安全のため、手に持っているものは、この机の上に置いていかなければならない。むろんカメラも。

ピンルームまでの道のりは、まさに舞台裏、獣道のような迷路のような場所で、足場がガタガタする場所も。一般の私達を入れるという選択は、挑戦的な決断だったのではないだろうか。

ピンルームにたどりつくと、照明スタッフ指導のもと、実際に灯体を操作させてくれました。制限時間は、一人につき1分。ストップウォッチで厳格に計っていました。

若手スタッフ指導のもと、舞台上にいらっしゃるベテランの先輩スタッフに光を当てるのですが、舞台上で先輩スタッフの方々は、参加者のために一生懸命動き回ってくださり恐縮でした。先輩なのに…。

若手スタッフにそのことを伺ったところ、普段光をあてるばかりなので、ツアーでは自分が光を当てられる側にまわったのだとか。なんというサービス精神。

ちなみに、かなり高いところにあるピンルームですが、公演中、スタッフはエレベーターを使わずに昇り降りしているとのこと。なぜかというと、万が一エレベーターが故障して閉じ込められたら間に合わなくなるから。

ピンルームの中は、ライトがたくさんあってものすごく暑いため、スタッフは冬でも半袖を着ています。

知られざる照明スタッフの努力。私は、裏方として働いていても、照明スタッフの方とは、朝の集合の時くらいしか会わず、どこで何をしているのか謎に包まれていました。しかし、今回のお話を聞いて、より敬意を表そうと思いました。


■舞台機構

 



再び舞台へ。
舞台上では、いろいろな幕の種類についての説明を受けました。
そのあと、登場したのは「上敷(じょうしき)ござ」。

幕が汚れないように、ござを敷いて作業します。今では、ブルーシートで代用することが多いそうですが、そのござを投げて敷き、素早く巻き戻す体験をさせていただきました。



■奈落へ

最後は、全員で舞台の機構を使って奈落へ。
奈落に着いたら、再び戻ってきます。(ここは、動画撮影OK)
参加者は、舞台に貼られた目印のところに均等に並びます。安全のため、せりの周りを囲い、せりが下がると、転落防止のためふちに柵がセットされます。


■最後は、質問タイム。

その場でぱっと考えるのって難しいなー。
その中で、ある参加者が「暗転した状態(舞台も客席も真っ暗になった状態)を舞台上で体験してみたい」とリクエスト。すると、舞台スタッフのみなさんが一斉に準備、暗転した状態を体験させてくれました。

言えばやってくれるらしい。
次に参加する予定の人は、ぜひリクエストを!

舞台スタッフの方々は、裏方ですが話すのがとても上手で説明も分かりやすかったです。そして、何よりこの日のために綿密に準備している様子がうかがえました。

そして、サービス精神に満ちていました。今後も同じ内容のツアーを続けていくということでしたので、もっと多くの方がツアーに参加出来たらいいなと思いました。