舞台の床と舞台裏の壁は、黒。
私は、普段コンサートホールに勤務することが多いので、床が木色(塗装されていない木本来の色)ではないのが新鮮に感じます。
■舞台上の機材の説明をしながら、実際にバトンを動かしてくれました。
私が個人的に興味深いと思ったのは、こちらの操作卓。↓
舞台上空のバトンなどを操作するものなのですが、ワイヤレスのため操作するバトンの近くに行って、バトンを見ながら操作できる優れもの。
また、ボタンを押している手を離すとバトンの動きがスローになるなど、安全のための工夫が施されています。操作しているスタッフが突然具合が悪くなり、操作できなくなった際、ほかのスタッフが飛んできて操作しなくても事故を防げる仕組み。
この解説前に、技術スタッフが実際に操作中に具合が悪くなって、苦しみながらボタンから手を放してしまう小芝居をしてくれましたが、突然の出来事に、1回では状況が呑み込めなかったので、解説後にもう一度やってほしかった…。
バトンは、重量があるので、頭に当たると大けがをします。
シチュエーションは違いますが、私は以前、バトンの昇降の際にスタッフがケガをするという事故に遭遇したことがあります。幸いなことに大事には至らなかったのですが、ケガをしたスタッフはもちろん、自分の操作によってケガをさせてしまったスタッフにも心的なダメージがあります。
公演は、スタッフの安全なくしては成り立たないので、安全対策の話は興味深かったです。
■舞台裏へ!
■最上階「Grid(すのこ)」エリア
舞台のはるか上空にある「Gridエリア」は、目の覚めるような黄色の空間が広がっていました。ガイドの職員によると、KAATでは、この場所を「演出の基地」と考えているとのこと。
客席からは見えない屋根裏の機構によってさまざまな演出が可能になるのですが、客席から見えないこの場所を暗い色ではなく「黄色」にしたのは、「発信を象徴している場所」だという考えから。
Gridから下をのぞくと、はるか下の舞台の床が見えます。
■ほかにも、客席からは見えないエリアを探検します。
フォロースポット室などから見える上からの眺めにドキドキ。
舞台下手側を歩きながら各所で説明を聞きます。そして、ひたすら歩きます。舞台の演出を支えるさまざまな機構がありますが、すべてメモしきれません。
普段下から見上げているものを、上から見下げるのは不思議な感じです。
クラシック専用のホールのように緞帳や幕などの機構がないホールと、舞台上に舞台の倍以上の空間が広がっている多目的なホール。それぞれに、異なる演出を支えている舞台裏はたくさんの知恵が詰まっています。
■作業スペース
そして、注目していただきたいのが1Fにあるこのスペース。
何気ない空間に見えますが、実はとても珍しい空間で、KAATが「創造発信型」の劇場であることを物語る空間です。
搬入口に隣接するこのスペースは、大道具や小道具、衣装などを作ることができる工房。リハーサル室と工房を行ったり来たりしながら、試作品を作っては実際に試しながら公演作品を作っていくのだそう。
一般的に多くの劇場では、どこかで作って練習してきたものを上演します。しかし、KAATは劇場で練習を重ね、劇場で道具も作っていくという、完成までのプロセスを全て劇場で行う、つまり創造する。そして上演、発信することのできる劇場なのです。
■搬入用のリフト(エレベーター)
そして、もう一つ興味深いものが。それは、搬入用のリフトです。
搬入用リフトが小さいホールだと数回に分けて運ぶ必要がありますが、このリフトは、長さ8.8m、大型のトラックに積んだ荷物をそのまま積み込める大きさ。なので、写真に納まっていません。そして、地上階1Fから舞台のある5Fまで、2分かけてゆっくり昇降します。
1F→5Fに2分。短いようで、意外と時間がかかります。
私も劇場が建物の上層階に位置する劇場で、出退勤時に搬入用リフトを使うように指示されている劇場がありますが、扉の開閉も遅ければ、昇降も遅いので、急いでいる(遅刻しそうな)時は、とても長く感じます(早く早く!心の叫び)。なので、それも見越して早めに出勤するのですが。
しかし、それには私が普段意識しなかった理由があることが分かりました。
地上階にない劇場にとって「リフト」は命。
KAATのように上層階に舞台のある劇場は、リフトが故障して動かなくなったら、大道具など大きな道具を運び込めなくなってしまいます。もし、運べなかったら、公演はできませんので、リフトが壊れないようにすべての動きがゆっくりなのだそう。
リフトは振動もなく、まるで動いていないよう。動いていないのではないかと疑う人のために、リフト内には、昇降に2分かかるむねが記載されていました。
動いて当たり前、あるいはあって当たり前と思っていたものが、動かなかったり、なかったりした時のパニックは半端ではありません。
リフトが故障して止まったら、心臓も止まりますね。これからは、リフトに感謝の気持ちをもって乗ろうと思いました。
■楽屋エリア
シンプルだけど素敵なKAATのオリジナルのれん。
こんな風にのれんを掛けるのも、クラシックの公演にはない光景です。海外でも演劇の公演では、楽屋にのれんをかけたりするのでしょうか?
知っている方がいたら教えてほしいです。
■今回のツアーでは、舞台裏の空間を単なる作業スペースとしてではなく、「演出の基地」ととらえているというお話が一番印象に残りました。実際はもっと盛りだくさんの内容だったので、また参加したいです。
以上、KAATのバックステージツアーでした。