やーぼのブログ

コンサートホールで案内係をしている著者が、出演者・聴衆・スタッフの思いが渦巻き乱反射する、劇場の魅力を語ります。 現在、新しいURL https://ya-bo.hateblo.jp/ に引っ越しを行っています。2023年3月31日にこちらのブログを閉じます。

車椅子ユーザーのサポート「車椅子の目線を体験」



舞台芸術鑑賞サポート講座の最終講座、車椅子編です。

本当は、3番と4番の講座にも参加したかったのですが、日程が合わず断念しました。
筆談の体験してみたかった…。

さてさて、会場に向かいます。

今回の会場は、もともと学校の校舎として使われていた建物を市民向けに解放している「みらい館 大明」。

建物は学校なのに、学校ではないって、不思議な感じです。

■今回の講座では、

・各劇場における車いすスペースの現状
・日常的に車いすを使って生活されている方のゲストインタビュー
車いすの鑑賞サポートの方法
車いす操作の実習などを行います。

■車椅子での鑑賞ホールに常駐している係員は、車いすでご来場される方用の導線を共有しています。また、公演ごとに必要な方がいらっしゃる可能性があるかどうかを事前に確認しています。そして、初めて訪れる劇場の場合でも、建物のつくりや館内図を見て把握するようにしています。

このように昨今、車いすで劇場に来場される方をお迎えすることは珍しいことではなく、いらしたときにどうするのか常に考えています。そして、主催者や劇場も積極的に来ていただこうという動きがあります。

しかし、そこにはさまざまな障壁があり、その障壁について考えさせられる内容でした。

車いす鑑賞の障壁

●そもそも劇場の造りが車いす利用者に対応していない

私が業務を行っているホールや劇場は、程度の差こそあれ、車いす鑑賞用のスペースがある劇場です。しかし、演劇を行う古くからある小規模の劇場は、車いすの利用に対応していないこともあるのです。

例えば、先日訪れた「俳優座劇場」。

こちらの劇場は、車いす用の(車いすに座ったまま鑑賞できる)スペースはないため、車いすを降りて劇場の座席に移る必要があります。このようなことを私たちの間では「席移り」などと呼んでいます。そして、それ以前に客席に入るまでにもかなりの段数の階段があり、車いす用のお手洗いも、階段を上がった先にあるのです。

つまり、車いすから降りてある程度歩ける方でないと、チケットを買っても席にたどり着くことができないのです。これらの事項をしっかり把握せずに、チケットを売ってしまったら、会場まで来ていただいても鑑賞していただくことができず、問題になってしまいます。

車いす用のスペースはあるが、別の用途に使われている

車いす用のスペースには、主に2つの種類があります。
・普段は座席があり、取り外すことで車いす用のスペースにするタイプ。
車いす席として確保されているタイプ。

取り外す必要のある席の場合、取り外さずに通常の席として販売していると、車いすのまま鑑賞したい方がいらしても席はありません。

では、もともと車いすのスペースとして空いている席なら、問題ないのかというとそんなこともなく、ちょうどよい広さと場所であるため、PA(音響機器)のミキサーの操作席にしたり、カメラを置いて撮影に使ったりすることもあります。すると、席がなくなってしまいます。

今回のゲストのMさんも車いす席を買ったはずなのに、このような用途に使われており、鑑賞できなかったという経験を語ってくださいました。

●公演のチラシやHPに、車いす席について書かれていない

電話などで問い合わせなければ、分からなかったり、問い合わせても、車いすスペースについて主催者が把握していないケースもあります。

私も、チケットの電話受付をすることがありますが、普段勤務している劇場以外のバリアフリーに関する質問は分からないため、劇場に問い合わせて確認しています。

しかし、その劇場にいれば即座に答えられるのかというとそうでもありません。それが、次のケース。

●「廊下」「扉」「お手洗い」「スロープ」などの幅を知りたい

車いすの幅は「JIS規格」で決まっており、
手動車いす:630mm以下
電動車いす:700mm以下
となっているのです。

しかし、一口に車いすと言ってもさまざまなサイズがあり、電動車いすのように特殊な形状をしている場合、劇場のさまざまな設備が、自分の乗っている車いすにあっているかどうか確認を入れているというのです。

正直に申し上げて、私は最も多く勤務している劇場であってもスロープや扉の「幅」を聞かれたら答えられません。

「JIS規格」で決められた車いすの幅が、
手動車いす:630mm以下
電動車いす:700mm以下であることから、
車いすの方を考慮して幅を考えるなら「800mm~900mm」の幅を確保しなければならないことになりますが、すべての劇場がそれを考慮してバリアフリー対策をしているとも限らないということ学びました。

●最寄り駅~劇場~客席までのバリアフリールートが知りたい

私も初めて訪れる劇場に行くときは、劇場のHPでアクセスを調べことがありますが、多くの場合あまり分かりやすくないなーと思います。結局googleマップで調べることになります。

バリアフリー対応が必要な方々にとって、街を歩いているように表示してくれるgoogleマップは、EVがあるのか、道の幅はどれくらいなのか、劇場の入り口はどうなっているのかなどを知る大きな手がかりになると思います。

しかし、ありませんか。

この部分が知りたいのに、車が止まっていたり、表示がそこだけ不鮮明だったり…。

ゲストの方々も同じことをおっしゃっていました。それに、幅なんて推定するしかありません。

ここまで来て、それらを網羅した情報をまとめて、各劇場でつくるしかないという思いが芽生えました。

でも、ありますよね。バリアフリーの情報をHPに載せている劇場。

■劇場㏋のバリアフリー情報のページが分かりずらい

ゲストのお二人によると、今現在、ほしい情報を網羅して提供できているHPは、ないそうです。また、バリアフリー情報のページを見つけるのも難しいとのこと。

例えば、「東京芸術劇場」のHP。



Webサイトの一番上のバーに、いくつか項目が並んでいて、その中に「サイトマップ」というバーがあるのですが、そこをクリックしてスクロールしていくと「バリアフリー情報」の項目にたどり着けます。

 


しかし、サイトマップを直感的にクリックできるかどうか…。
「公演情報」「チケット」「施設案内」と同じように表示されていると、見やすいと思いました。

ちなみに、説明が分かりやすいHPとして挙げられていたのは新国立劇場のHP。
どれどれ。帰ってさっそく調べます。

こちらも初めの画面に、直接「バリアフリー情報」が表示されているわけではなく、「施設・サービスを知る」というところにカーソルを合わせると、各項目が出てきます。


バリアフリー情報」をクリック。


下へスクロールして、


バリアフリールート」の文字をクリック


立体地図、写真、矢印の書き込みを駆使して解説しており、かなり充実しています。


■まとめ

このほかにも、車いすを操作する体験やこの講座でお話を聞いて初めて気づいたことがたくさんあるのですが、またの機会にお伝えしたいと思います。

この講座を受けたから、すぐ実践というタイプのものではありませんが、考えるということが大切だと思いました。知らなければ、気づかなければ、自分だったらどうするのか考えられないからです。

お手伝いが必要な方へのサポートについて考え、ちょこっとだけ実践したひと夏でした。


■【個人型講座】

【5】車椅子ユーザーのサポート「車椅子の目線を体験」
日時:8月27日(土)13:00~15:00
内容:▶車椅子ユーザーの話を聞く。
   ▶劇場で配慮できることを考える。
   ▶車椅子に乗ってみる。
料金:1,000円
会場:みらい館 大明108